山口光恒研究会 卒業生の諸君へ

第7期生 2004年3月卒業



卒業生名

自筆署名

凡人の努力は天才に勝る

 諸君卒業おめでとう。心からお祝い申し上げる。君たちの卒業を誰よりも喜んでおられるのは君たちのご両親或いは保護者の方々である。まずは卒業証書を添えてこの方々にお礼の言葉を述べてほしい。
 卒業に際して君たちに「凡人の努力は天才に勝る」という言葉を贈る。人にはそれぞれ持って生まれた天分がある。たとえば運動や芸術の面で普通の人の遙かに及ばない才能を持ち素晴らしい活躍をしている人もいる。或いは諸君の周囲にこうした人がいるかもしれない。このような人はその活躍のすばらしさ・華やかさから非常に目立つが、実際にこうした天分を持って生まれてくる人はむしろ例外といってよい。小生も含め大部分の人は非凡では無いという意味で凡人である。
 しかし凡人の努力は天才に勝るのである。諸君の中には寸暇を惜しんで勉学に励み、或いは運動・音楽・絵画などのクラブ活動に打ち込んできたものもいるであろう。大学時代を通してこうした活動に全力で取り組んだ人間であれば、冒頭の言葉の意味が分かるはずである。即ち、凡人が全力を挙げて努力をすれば、必ず天才を上回ることが可能なのである。
 慶應義塾の大先輩である小泉信三氏はまたテニスの名手でもあったが、同氏には「練習は不可能を可能にする」という有名な言葉がある。小生は学生時代のクラブ活動を通してこれを身をもって感じ、実社会に出てからますますその感を強めている。もちろん天才が全力で努力をすればその到達点は到底凡人の及ぶところではない。しかし世の中に天才はきわめてまれで、その中で全力投球を継続できる人はさらに稀である。即ちこういう人はほとんど居ないのである。
 大部分の諸君は4月から社会に巣立つ。しばらく仕事をする中で、諸君から見て大変優秀でとてもかなわないと思う人間に多々遭遇するであろう。しかしここであきらめてはいけない。諸君に何より求められていることは与えられた仕事に全力投球することである。考えに考えて更に考え抜くのである。寝ても覚めても解決策を考え続けるのである。諸君は清華大学との会議でこうした経験を十分積んだはずだ。そうした努力を続ける中で、あるとき諸君の中に閃きが生ずる。運動や芸術に慣れ親しんだ人間ならよく分かるように、どんなに努力しても少しも進歩がない期間がある。それでも懸命に努力を続けていると、ある時突然今までできなかったことが出来るようになる。仕事も同様である。四六時中ある問題を考え続ける中で突然道が拓けるのである。こうした努力を懸命に続け、ある時ふと周りを見ると、以前はとてもかなわないと思っていた人間に比べ、諸君の能力は見劣りしないどころか、上回っていることを自覚するであろう。
 ここで注意してほしいのは人との競争のために努力するのではないということである。諸君が自分を磨き能力を高めることで、より大きな仕事をする機会に恵まれる。さらに重要なことは、こうした努力を重ねることで諸君は会社・組織が諸君に何をしてくれるかではなく、諸君が会社・組織に対し何が出来るかを考える人間になるであろう。
 これはまた諸君のマーケットバリューを高める。これからの時代は終身雇用とは無縁の世界になる。こうした中で、諸君は組織にしがみつくことなく自信を持って仕事が出来るようになる。
 努力の積み重ね、これを諸君に対するお祝いの言葉とする。慶應義塾はそこを卒業したことを誇りと出来る数少ない学塾の一つである。さあ、慶應の卒業生として胸を張って社会の荒波に立ち向かってほしい。


2004年3月吉日